STY2018の記録【レース編②】


2018.4.27 12:00JSTの号砲と共に、STYスタート。と、ここでおさらい。今回のレースプラン。


過去のSTYを調べたところ、2014年大会のコースが今回に一番近かったので、2014年に15時間前後でフィニッシュしたランナーの記録を参考に作成した(2014年の方が累積標高が600mほど高いけど)。

まあ、実際は前半で貯金を作って後半で食いつぶしていく展開になるんだけどねー。などと思いつつ、あーでもないこーでもないと推敲したのが↑

スタート→W1→A1

スタートは割と前の方に陣取っていたため100mくらいジョギングベースで進んだら、そこそこ走れるペースに。沿道からみなさんの「いってらっしゃーい!」という大歓声を受けテンションが上がったのか、子供にハイタッチ。「これが…日本最大のトレイルランニングレースッ!!」と感動しつつ徐々にペースを上げる。
ちなみに、過去3回UTMBを走っている先輩曰く【UTMB>>越えられない壁>>UTMF】。シャモニーの大歓声は、それはもうすごい(語彙)らしい。

STARTからW1、そしてA1までは下り基調。序盤からガンガン飛ばしたくなるけど、調子に乗りすぎるとA1を超えてからの天子で地獄が待っているので昂る気持ちを抑えて同じようなペースの人を見つけては後ろを走る。

・・・遅い。

30mほどケツを追って走るんだけど結局ペースが合わなくなり、抜く。これを数km繰り返す展開。
ひたすら砂利道だけど、数日までの雨の影響はほとんどなく走りやすい。
4km以上のザックを背負っているけど、ペースはキロ5分かかってないくらい。
そしてそして走りながら体調チェック。

足、問題なし。
内臓、問題なし。
腕、問題なし。
爪、問題なし!

フルマラソン以上のロングレース前にはいくつか徹底していることがあって①食物繊維断、②カフェイン断、③オナ禁、④油っこい食べ物断、⑤水分多めに、⑥カーボローディング、⑦ヨーグルト。

書き出すと結構やっているな。しかし勢いで完走できるほど自分は強くないしSTYは甘くない。参加するレースは中途半端な結果にしたくないので、基本的には全身全霊、全力投球で挑んでいる。これは10代の時から変わらず。
天気は相変わらず曇天で、気温も高くない。W1にはあっという間に到着。水、ジェルの消費はなんとゼロ。

W1ではペットボトルを配っていたので「あ、これもらっても全部飲めないわ」と思い、スルー。

予定より20分巻き。悪くない。
しかし。思い返せば、ここで少し水分を入れておくべきだったか。

W1を出てからはA1までまたもや下り基調。
(飛ばしすぎないように…)と念仏のように唱えつつ走る。走る。
W1からA1までは高架線の下をひたすら走る。微妙に上りもあるけど基本は下り。
何人かをパスし、後ろから来た大陸系の集団に道を譲ります。
特筆することもなく、A1に到着。
ここでサポーターの佐藤に連絡を入れる。

「A1」

以上。シンプルイズザベスト。
A1ではバナナを4切れほど食べる。
また消費した水分をボトルに補給。しようと思い順番待ちをしていたら、残り少なくなった2リットル入りコーラをラッパ飲みしていた中国人選手がコークを差し出してくるので「お、おう^^;」と思いながらもマイカップに受け取る。

「good taste!」と共に親指をグッ( ´∀`)bグッ!と上げると、向こうもとっておきのウィンク(^_-)-☆を返してくる。異文化コミュニケーション。

本当はコーラを入れるのはA2以降の予定だったんだけど、まあ気にしても仕方ないし、いいや。

A1を出発すれば前半の山場、天子山脈が待っている。長い長い山登り。
熊森山を越えてもA2まで10km以上あるっていうのがね!

エイドで水分&エネルギー補給をして、ザックからA2までに必要なジェルなどを取り出し、アクセスしやすいポケットに詰める。

ついでに、天子山脈で夜を迎えることになるのでヘッドライトをいつでも使える状態にして、いざ出発。
体の調子も問題なし!


A1→A2


31km地点。A1を出発してから9km地点。

俺は頭を抱えていた。大腿四頭筋がガチガチで全く動かない。
オーバーペース?水分不足?マグネシウム不足?分からない、どこで失敗したか分からないが、これ以上レースを続けるのは無理だと頭では考え始めていた。

「いやー、レース前に仕事が多忙で調整不足でさー(笑)」
「水を節約するあまり、症状に気づくまで全然とらなくて(笑)」

俺の脳みそはレースを途中で辞めるための正当な(?)理由をいくつか考えていた。
レース前の食生活に付き合ってくれた妻に告げる言い訳。
名古屋からサポートのために来てくれる佐藤に告げる言い訳。

いっぱい考えた。
STYが終わる。こんなところで。だって、足が動かないんだもん。この足であと60km、どうやって走れと?仮に足が復活しても、ここで水を消費しすぎた。A2まで水が尽きる可能性が高い。

STYの選手にどんどん抜かれる。直にUTMFだってスタートする。そうすればUTMFのトップ選手が直にやってきて、その中には会社の先輩もきっと居る。走れなくて、小鹿のようにぷるぷると震えている俺を見て、なんて思うだろうか。

「抜かれたくない、せめて、A2までは…」

率直に、生まれたての小鹿をもう一度奮い立たせてくれたのは、迫ってくる会社の先輩の存在。
情けない姿を見せたくない?自尊心?羞恥心?いつかはUTMFを一緒に走れるようになるために?
入念なストレッチとマグオンを注入。持っていた水分の30%近くを消費。
動く。痙攣する足を一歩一歩あげる。

途中で必殺のVESPA SPORTを入れる。水のようにさらさらだ。
正直、水がA2まで保つかどうか微妙なところだったので、このさらさら感は嬉しい。のどが潤う。

天子を登りきることにはそれなりに足は回復していた。
天子の山頂には20人ほど居て、座っている人、スマホを見ている人、仲間と語り合っている人。それぞれだ。

「よっこいしょ」と俺もその辺に座ろうと思ったところ
「ここでの休憩はやめて、さっさと登り切った方がいい」
「うむ、そうしよう」

という会話が聞こえてきて「そうなの?!」とダンボのようになった耳を傾け、重い足を引きずりながら彼らについていく。 

しばらくしてナイトセクションに突入。
ライトは3つも持っているが、ペツルのNAOちゃん一灯勝負を決めていた。
NAOちゃんは一定の明るさを提供してくれるコンスタンスモードと、周知の状況に合わせて光度を自動調整してくれるリアクティブ機能があるんだけど、今回はリアクティブ機能を採用して、いざON!

「霧が深くてぜんぜん見えねえ(笑)」 

そう、天子山脈では霧が結構深かった。前を走る女性選手のライトは黄色でなかなかに見やすいので後を付いていく。
波長の違いで目に入ってくる光の量が変わる、という物理学を身をもって体験した瞬間であった。

ちなみにリアクタンスモードはかなり快調だった。コーステープの反射材にすら反応して光度を落とす設定。足元を見れば自動光調。こいつはすげえ。
長い長い天子山脈を超えると、今度は長い長い下り。
思ったより足は動く。

山を下りきって、A2までの道中でUTMFのトップ選手に抜かれた。トップ選手どころか、あんまり数えてないけど10人以上には抜かれた。ちなみに会社の先輩にも抜かれた涙。
A2が近づくとサポーターの佐藤に連絡を入れる。

「あと1km」 

走りながらだとスマホを操作しにくいし危険だね。走りスマホ、ダメ、ゼッタイ。
すると

「A2についてるよー☆」 

というラインが入り「なんだこいつは、のんきでいいな」などと頭の中で思う。疲れた体と頭は思考回路を悪くする。
A2に着いたら佐藤に電話。あっさり佐藤に会えた。
けど!あのときの感動よ。居ることが分かっていたけど、本当に会えるとは。
佐藤からは事前にリクエストしていた物品を受け取り、逆にA4で渡してほしい食料を預ける。

あまりの居心地のよさに予定滞在時間をオーバーしてしまうも、心が満たされた。

「じゃあ行ってくる!またA4で!」 

と言って別れたものの、大腿四頭筋の調子がいまいち。ここでさらにマグオンを注入(走りながら入れろよ)。さらに富士宮やきそばと珈琲をいただく。ああ、珈琲。2週間ぶりの珈琲。美味しい。ブラックで飲んだけど、砂糖をガッツリ入れた方が良かったのだろうか?
予定より1時間半押し(終)。 


A2→A3


A2からA3は短い。10kmだ。
緩やかな登りと、後半にガツンと登ってガツンと下る。
この緩やかな登りが結構辛くて、脳内では凛として時雨のとある曲のワンフレーズが永遠にリフレインしていた。

その曲とは、2018.2に発売されたばかりの「#5」から「High Energy Vacuum」。

曲の最後にTKと345の畳みかけるような掛け合いがあるんだけど、ひたすら、そこだけが脳内再生されていた。気になった人は「凛として時雨」でググってみてください。#5 の各曲を一部視聴できますので♪

A3では湯葉スープみたいなのをいただく。温かくて内臓にしみる…。あとバナナやパンを食べる。気づいたんだけど、足の不調とは裏腹に内臓は全く元気だ。ピンピンしている。いまなら牛丼もぺろりといけそうだ。などと考えながら、A4までに食べるジェルをポケットに詰め替える。

出発前にレインジャケットを羽織り、トイレに行く。途中に仮眠室があり、何人かが毛布に包まって眠っていた。ストーブがあったかそうだった


A3→A4


A3からA4は記憶がないんだけど、結構大変だったと思う。

この区間でも凛として時雨の"ハイエナ"がリフレイン。345ちゃん可愛い。
ちなみにレース中は↑の地図を割と見ていた。EPSONで現在の走行距離と標高が分かるので(距離の誤差は無し、標高の誤差は±5mくらいでかなり制度がよかった!)、ピークまであとどれくらい登るのかがざっくり分かる。「分からない方が幸せ」という意見もあると思うが、客観的に物事を捉える傾向がある俺には有効。
烏帽子岳を降りたところで女性のランナーに追いつく。

「A4まで、あとどれくらいですかね」

と聞かれたので

「いまが…68kmだから、あと4ほど…」

という短い会話を交わす。
トレイルを走ると思うんだが、(当然だけど)フルマラソンは競技性が非常に高い。フルマラソンを走る3時間ほどの間は誰とも口を利かない。倒れている人が居たらさすがに声を掛けるが(というかスタッフや応援の方が沿道にたくさんいるんでまずはその人たちが気が付く)、足がつって苦悶の表情を浮かべている人が来ても、無視して走り続ける。 

一方、トレランは上記のような短い会話はするし、LSDくらいのペースで走る人はずっと喋っているという。今回のUTMFだって日本人トップでフィニッシュした大瀬選手と土井選手は途中から並走し、同着フィニッシュだ。

フルマラソンとウルトラトレイルは共に長い距離を走るけど、競技の方向性がちょっと違っている。それはウルトラトレイルが旅に例えられるから?

こんなことを言うと怒る人がいるかもしれないけど、俺はこの緩さが心地よい。
もちろんトレイルレースを走る以上は俺だって上位、表彰台を目指してはいる。それでも話しかけられたら会話もするし、座っている人には積極的に声を掛ける。短距離や、フルマラソンのようにガツガツしない。会話や景色やエイドを楽しみながら、全力で走っているんだと思う。俺はトレイルランニングを生涯スポーツに出来たらな、と思っている(UTMF/STYにはレジェンド枠だってあるし)。

A4では再度佐藤と合流。やはり、サポーターに会えると感動するし、涙が出そうになる。
所望していたレッドフルは寒くて飲まなかった(笑)

A4の手前から肘から下が痺れてきて、これは寒さから?それとも疲労から?分からなかったが、アームカバーをしたまま長袖に着替える。さらにその上にレインジャケットを羽織って、肘から下は三重にしておく。

柿ピー、パンなどを食べる。周りは同じようにサポーターの援助を受けつつ、寝っ転がっている選手など散見される。ここまで72km。日付も変わり、疲労の蓄積もピークだろう。
一方、俺はというと相変わらず内臓は問題ないし、思ったより足も動く。走っている途中で痙攣することもなくなった。72km地点にして不死鳥の如く復活である。要因はなんだろう。。やっぱりマグネシウムなのか。 

20分ほど滞在しA4を出発。佐藤とフィニッシュ地点の大池公園での再会を誓う。 


A4→フィニッシュ


A4を出発するとフィニッシュの大池公園までは20kmだ。

序盤、緩やかな登りの舗装路がひたすら続く。ここでは街頭があるのでNAOちゃんをOFF。夜明けまで電池持つかな?と思っていたら山のどこかで瀕死の蛍の光状態になったので、ここでブラックダイヤモンドに変更。

ブラックダイヤモンド(ストーム)もGoodなヘッドライトだけど、一晩で2つのヘッドライトを装備したことからNAOちゃんのハイスペックを思い知る。ストームもHIGH/LOWモードがあってHIGHだと結構明るい。けど、明るさの範囲がNAOちゃんに劣る。あと決定的にNAOちゃんが優れていたと思った点は、走ってもぶれない=固定の調整が非常に簡単だということ。そもそもバンドを締める構造が違う。 

そういえば先日、次期リチウムイオン電池に関するニュースが流れていた。NAOちゃんもリチウムイオン電池を使用していることから、ちょっと期待しちゃう内容だよね。夜通し点灯してもバッテリーが枯渇しないんなら非常に助かる。 

走りながら体をチェック。
足、動く!
内臓、問題なし!佐藤からもらったソイジョイを少量ずつかじり、咀嚼する。
爪、右足の親指と小指が死んでいる気がする!たぶん内出血。違和感はあるが痛みはそんなにない。
脳みそ、そこまで眠くない。ネガティブな考えも浮かんでこない!

つまり俺の心と体は、フィニッシュまでなんの問題もない。ただ、目標にしていた15時間は無理そうだ。

A4をOUTした時点で2時間20分押し。ゴールは17時間半前後かな、とぼんやり考える。
足和田山を超えてからは、あまり記憶がない。何キロ地点から舗装路に下りただとか、トレイルと舗装路の境界線を全く覚えていない。空は白くなり、ライトは不要になった。でも外したところでしまうのが億劫なのでそのまま頭に装着しておく。

河口湖を左手に、湖畔のコースをただ走る。

A4からの俺は凄まじかった。他の選手が歩いて登る坂を走る。下りでもどんどんパスする。天子山脈で落とした順位を、タイムを回収していった 。
だけど怒涛の追随はここまで。手元のEPSONで、フィニッシュが近いことを知る。
周りには選手は見えない。
スタッフが大きく手を振るのが見える。

長かった。92km。
高かった。4100m。

天子を上る途中でリタイアするしかないと思った。A2に辿り着けず、A1まで戻るしかないと思った。
でも走った。

世界で戦う先輩と種目は違えど、同じ大会に出場できたから。レース前、大量のジェルやアドバイスをいただいた。

名古屋から駆けつけ、A2とA4でサポートしてくれた友人と一緒にフィニッシュテープを切りたかったから。

STYを走るために、2017年は全国のレースを走ってポイントと力を貯めたから。

休日は山に籠り、どろどろの状態で帰宅する俺をSTYに送り出してくれた妻に感謝を伝えたかったから(今回妻は休みが取れませんでした)。

走ることが好きだから。

感謝ッ!圧倒的感謝ッ!
顎が鋭利に伸び始めたとき、ついに目の前にフィニッシュテープが現れる。
コース脇から差し伸べてくれる手にハイタッチで答える。

拍手と何言っているのかよく分からない(記憶にない)アナウンスで迎えられる。
テープの向こうにカメラマン、と鏑木さんが居る!
そして、五体満足でフィニッシュできました。
ちなみに佐藤は寝坊したので、俺のフィニッシュの瞬間には立ち会えませんでした。

帰宅
フィニッシュの余韻に浸っているとバスで大池公園まで来た佐藤と合流。
どうやら北麓駐車場行きのバスの出発が3分後らしく、急かされる。これを逃すと次は1時間後。恐ろしい。スタート地点で預けた荷物を受け取り、バスへ駆け込む。

北麓駐車場から佐藤の車でこどもの国へ。1時間ちょい。

STYは過去ずっとワンウェイだけど、UTMFは初のワンウェイだからな。なんというかバスによるアクセスについては批判が出そうな気がする。

こどもの国では一緒に富士山やフィニッシャーズベストを着て写真を撮ったりした。レース前、佐藤に感謝の意と共に差し上げることを決意した謎のジェルはきっちり渡した。トレランを始めるらしいので、きっと役に立つときが来るだろう(適当) 。
佐藤と別れ、それぞれの帰路に就く。俺は途中のサービスエリアで仮眠をしたけど余裕で午前中には帰宅。直視するのが恐ろしくて靴下を脱がなかったのだが、右足の親指、小指、左足の小指が内出血している。特に親指は爪がドス黒く染まっている。
ちょっと歩行困難なので行きつけの整形外科の診療時間をググり、その日のうちに血抜きを完了。

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たいした怪我もなく、STYを完走することができた。
楽しかったし、疲れたし、感謝した。
目標の15時間、100位以内には遠く及ばなかったけど、生涯を通して挑戦する価値があると思えるものに出会えました 。
「来年こそSTYで悲願を達成する?それとも、UTMFで限界に挑戦する? 」
レース後、先輩に問われたけどまだ分からない。
でもきっと、来年も富士山の麓を走っているんだろう。


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